明大中研 The IC Project 〜Intelligent Clone〜

******** IC : Intelligent Clone ********

クローン人間を作ろう!
---> ルーチンワークのエージェント化!!

■■2002年度以降は、<試作&学会発表>のページへ掲載■■
□■□□2001年度 研究試作(南谷圭持・作)□□■□


■ ゼミ生募集 ■
4.ソフトウエア工学への人工知能応用(エージェントモデル)
/?/コンピュータに教えるのになぜプログラムが要るの?/
 ↓ 人間の頭の中のプログラム(知識)はマルチパラダイム.
 ↓ 知識をエージェントに教える。
★★★ルーチンワークのエージェント化


■ 著書 ■「ソフトウエア危機とプログラミングパラダイム」(1992.8)の12章から抜粋

12.4 ソフトウエアクロ−ン

12.4.1 究極のプログラミングパラダイム

道具としてのコンピュ−タを活かして用いるためには、エンドユ−ザコンピュ−ティングの実現が不可欠である。そのためには、従来の手続き型パラダイムからの脱却はもちろんのこと、プログラミングの概念そのものから脱却できなければならない。そこで、究極のプログラミングパラダイムについて考えてみよう。ここでは、究極のプログラミングパラダイムによって作られる究極のソフトウエアを「自分がやりたいことをやってくれる」 知的なクローン(Intelligent Clone)という意味で,インテリクローンまたは ソフトウエアクロ−ンと呼ぶ。

一般に、ソフトウエア技術は「モデリング & シミュレ−ション」技術である。従来のプログラミングではシミュレ−ション可能なモデルを作るために論理を駆使してきたが、そのためには熟練技術が必要であった。非手続き的アプロ−チによりシミュレ−ションのための制御の概念を取り除くことには成功したが、図4.1でも示したように対象モデルを計算モデルに変換するという作業は残った。

このプログラミング形態を大きく変えたのは、10章で述べた人工知能技術である。知識と推論という人間の知的能力のアナロジ−により、モデリング&シミュレ−ションを実現するために論理を組み立てるというプログラミング作業がなくなった。その代わりに望ましい推論結果を導くための知識の調整( adjustment )作業が必要である。これもある程度の熟練技術は要求される。そのため、本書では人工知能技術を簡易プログラミングと位置付けている。

ソフトウエアクロ−ンを実現するためには、もっと簡単にやりたいことが伝わらなければならない。熟年夫婦や有能なベテラン秘書との会話のようにならなければ、自分の分身とはいえない。そのためには、調整に代わって適応( adaptation )あるいは学習( learning )機能が必要である。その可能性を探るためにマルチエ−ジェントとニュ−ラルネットワ−クについて考察する。

12.4.2 マルチエ−ジェント

自分がやりたいことをやってくれるソフトウエアクロ−ンに近いメタファとして、秘書を考えてみよう。秘書は、マルチパラダイム型の知識を駆使して業務を代行してくれるエ−ジェントである。

筆者は、10章で紹介したマルチパラダイム型の知識表現機能を持つエキスパ−トシステム構築ツ−ルES/X90を用いて、知的秘書システムKISS( Knowledge-based Intelligent Secretary System )のプロトタイプを開発した経験を有する。このシステムコンセプトは、一見したところ非定形業務のように見えるユ−ザ(筆者自身)の雑多な中間管理業務を小さな定形業務の集まりと見て、可能な限りコンピュ−タ化し、本質的な意思決定の部分のみをユ−ザが行う、というものである。まず業務を細かく分類し、フレーム表現を用いて図9.9に示したような業務のオブジェクト階層を作る。業務が発生する度にこれを用いて業務のインスタンスを生成する。次に、業務の種類ごとに定形的な処理部分をル−ルメソッドまたは述語メソッド化する。ユ−ザの判断が必要なところは会話型処理にする。このようなシステムはまだプロトタイプの段階であるが、オフィスにおける業務の電子化と分散コンピュ−ティングがすすめば、早晩実用になるものと期待している。

分散コンピュ−ティングの世界では、グル−プウエアを経由して、このようなエ−ジェント同志がお互いにメッセ−ジをやり取りして分散協調システムを形成することになる。例えば8.3節で例題に用いたOOOシステムにおける自律的なオブジェクトがこのようなエ−ジェントとして機能すれば、全体がマルチエ−ジェントシステムとなる。この時の一つの課題は、各エ−ジェントにどのように適応機能を持たせることによってシステム全体の適応機能を実現するかということである。そのためには、エ−ジェントにマルチパラダイムの知識表現のみならず、メタ知識やリフレクション機能が必要となろう。

12.4.3 ニュ−ラルネットワ−ク

自分がやりたいことをやってくれるソフトウエアクロ−ンに近いもう一つのメタファとして、ニュ−ラルネットワ−クを考えてみよう。これは、人間の脳神経網の生理学的知見に基づく並列計算モデルにより、現在のフォンノイマン型ア−キテクチャのコンピュ−タが不得意とする認識・理解機能の実現を試みるものである。学習による自己組織化機能を有し、究極のプログラミングパラダイムとして期待される。

筆者は、かつて思考過程のモデル化にニュ−ラルネットワ−クを用いたことがある。思考過程を「記憶された概念の想起の列である」と規定すると共に、その基本機能としての連想作用と意識作用に注目し、思考エネルギ−というコンセプトを導入して次のように規定した。

(1) 意識とは、大脳における思考エネルギ−分布の集中作用であり、十分な集中が概念を明確に想起させる。

(2) 連想とは、集中した思考エネルギ−の拡散作用であり、十分な拡散が新たな概念の想起を促進する。

このモデルでは、思考過程は思考エネルギ?の絶えざる集中と拡散の中で生じる概念想起の列となる。学習は、思考エネルギ−の拡散の方向を決めること、即ち、特定の方向へ拡散しやすくすることであり、ニュ−ラルネットワ−クにおけるニュ−ロン間の結合係数の増加に対応する。

このモデルをRAC( Repetition of Association and Concentration )モデルと名付けた。従来のニュ?ラルネットワ−クモデルにありがちな計算モデルとしての意味論の曖昧さを避けるため、確信度付きの並列プロダクションシステムとして計算の意味を規定したが、詳細は文献(95)等に譲る。

このモデルを用いて、対話学習による概念学習の可能性を探るために種々のシミュレ−ションを行った。その方法を図12.2に示す。fは連想に対応する拡散関数で、従来のニュ−ラルネットワ−クと同じである。gは意識に対応する集中関数で、RACモデルに固有である。hはある概念の思考エネルギ−が閾値を超えたらそれを出力する言語化関数である。βは外部入力を思考過程(fgサイクル)に取り込むときの重み係数で、注意度を表す。ニュ−ラルネットワ−ク(拡散関数)の結合係数の初期値と学習規則、各種パラメ−タ、集中関数などの設定の仕方により、種々のモデリング&シミュレ−ションが可能である。ここでの本題である対話学習のほか、人間の思考能力の発達段階、幼児期の自己中心言語の役割、失語症の多種多様な症状、デルファイ法による多数意見への誘導、などの分析に適用した。

ソフトウエアクロ−ンという観点では、まだ十分な成果を得ていないが、脱プログラミングの一つの方向として学習による自己組織化機能は魅力的である。粗忽長屋という落語に、粗忽者が行き倒れの自分を引き取りにいって、「かつがれている奴は確かに俺だが、かついでいる俺はいったい誰だ?」と悩む場面があったが、ソフトウエアクロ−ンのユ−ザが、「考えているこのシステムは確かに俺だが、考えている俺を考えている俺はいったい誰だ?」などと悩む時代の到来を期待したい。


◆雑談◆

「ソフトウエアクロ−ン,Intelligent Cloneと類似の概念」